「エリザベスさん、アートはお好きでしょうか?」
「はい、とても。特に現代美術には興味がありますわ。宗像さんは、明日、現代美術館に行くとおっしゃっていましたわね?」

「現代美術がお好きとは結構ですね。もし宜しければ明日ご一緒にいかがですか? 一人で見るよりも二人の方が楽しそうですし……」

珍しく押しの強い声がタクシーの後部座席に響いた。

「それは確かにそうですね。でもお邪魔ではございません?」

「いえいえ、一人旅は気楽なものですが退屈になりますから。素晴らしいものに出会っても、感激を分かち合える相手がいませんし。では……決まりましたね? まず芸術を、その後は……。そうでした、海と魚とポートワインにでもしましょうか?」

少しはにかみながら宗像が言った。

「それは良いアイデアですわ。それではお言葉に甘えさせていただきます。明日がとても楽しみになりました」

会話はさらに続いた。彼女の仕事を尋ねると、ロンドンでグラフィックの仕事をしているということだった。タクシーは裏道を走ることにしたようで、突然左のT字路に入り込むと、それまでの大渋滞が嘘であったかのように車が少なくなった。

低い角度の逆光がごつごつした石畳の地面を舐めて、コントラストの強いパターン浮き出させていた。タクシーは幾度となく右折左折を繰り返して、ホテル・アトランティックの玄関に横付けされた。

「それでは明朝十時にお迎えに参ります。美術館は十時にオープンしますが、すぐ近くですし、それで宜しいでしょうか?」
「ご配慮ありがとうございます。それでは明日十時、宜しくお願い致します」

エリザベスと名乗る女は車寄せに留まり、手を振りながら宗像を見送った。