呼び掛けから三日後の朝、十一人の若者が柵の前に整列した。ユヒトはイニギやスソノら仲間を伴って、朝の暗いうちからイマイ村からやってきた。普段通り槍や弓矢を携えている。

「本当にぼくたちでもできるの? 槍も弓も無いけど」
「要らないよ。じゃ、出発するよ」

一行は柵の外に出た。ユヒトを先頭に森に分け入っていく。道なき道を草を払って進む。十五分ほど行ったところで、ユヒトが立ち止まった。足元の草が左右に開いている。小動物の獣道らしい。

「ここに穴を掘るよ」ユヒトは地面を指差した。
「小さめの穴を、一つ、二つ……三つだな。ダイガクセーは穴掘り、チューガクセーはイニギと一緒に枝を集めて。長さや太さはイニギが教えます(ユヒトは笹見平の社会構造を理解しつつあった)」

大学生はユヒトの指示で穴を掘り始めた。小さめの穴といっても、直径約五〇センチ、深さ約一メートル。大学生らはすぐに息を上げたが、イマイ村の若者たちは軽々と掘っていく。

中学生らはイニギに従い、藪に分け入って枝を集め、石で削って先を尖らせた。五〇~六〇センチくらいの木の槍が十五本できた。ユヒトはそれを受け取ると、掘った穴の中に入り、尖った方を上にして底に一本ずつ植えていった。

一つの穴に五本ずつ、ちょっと触っただけでは倒れないよう、しっかりと植えていく。全てを植えると、穴から上がり、上に長い細枝を何本か渡し、落ち葉で覆って、その上にさっと土を撒く。穴はパッと見ても分からないくらい周囲に同化した。

「危ないから、落ちないようにね」
ユヒトはかぶせた葉の上に目印の小石を置いた。

「明日またここに来よう」

その日はそれで解散した。狩りに参加した笹見平の若者たちは
「なあんだ。ただの落とし穴か」
「狩りっていうから楽しみにしていたのに」
「あんなの子どもだましだよ」
いくらか幻滅したような帰り道だった。

翌朝、一行が昨日の場所に近づくと、穴の周辺の様子が微妙に変わっていた。かぶせた木の葉が散っていて、目印の小石も無い。

ユヒトはひとり先に走っていって、穴を覗き込んだ。すぐに顔を上げ
「掛かってる! 掛かってる!」

笹見平の若者たちはワッと歓声を上げて走り出した。はてさて、どんな獲物が掛かっているのか。胸が高鳴る。

真っ先に駆けつけた数名が、覆いかぶさるようにして一斉に穴の中を覗き込んだ。ところが
「ううッ……!」

若者らは真っ青になって顔を背けた。慌てて口元を抑える者もいる。林も後から駆けつけて穴を覗き込んだ。底の方に、木の槍に身を貫かれた野ウサギの姿があった。血だまりの中で赤い目を見開き、苦しげに手足をうごめかしている。

「大成功だ!」

※本記事は、2020年7月刊行の書籍『異世界縄文タイムトラベル』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。