痛みが出ないがんもあるかと思います。でも○○がんという病名を見れば痛みの出現も予測できます。「がん性疼痛」の病名が必要なのか。急性胃腸炎と聞いた時どんな症状を考えるのか。多くの方が下痢、嘔吐、腹痛などを真っ先に思い浮かべるでしょう。慢性気管支炎と急性気管支炎の咳の差はあまりないように思います。

以前は病名によりそこから引き起こされる症状が予測され、その治療に用いられる薬剤について、最近のように細かなことまであまりとやかく言われなかったように思います。

保険財政の健全化のためか現在は病名よりも単なる症状だけで適応が認められるような気がして残念で仕方ありません。急性胃腸炎の時に「下痢症」「腹痛」「嘔吐症」「脱水」などの病名が必要なのか? 

非代償性肝硬変という病名を見た時化石医師なら食道静脈瘤ができたり黄疸、腹水の貯留、出血傾向、アンモニアの上昇による意識障害などが頭に浮かびます。

あるいは肝がんの合併、胆石の合併もあります。でもこうした病態の診断治療のために行われる検査、薬剤について全て病名が必要になってしまいます。

循環器内科、呼吸器内科、消化器内科、腎臓内科、血液内科、さらに消化器の中でも食道専門、胃専門、大腸専門などと細かく分かれてしまった現在の診療体制。内科ばかりでなく外科でも整形外科でもその他の科でも細かく分かれてしまっています。

このように人を臓器で診るような医療の反省から、全人的に診る総合診療科の大切さが認識され始めています。病気も個々の症状で捉えるのではなく、その疾病で起こり得る変化、症状に対する治療を包括して、レセプト点検をして貰えればストレスも少なくなるでしょう。

病名に表現される病態を離れ個々の症状のみが独り立ちする現状は悲しい。やはり化石医師かな。

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『新・健康夜咄』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。