MCIは記憶障害のみの病気ですが、臨床的にも病因論的にも多様性、多因性を有しており、認知症との判別は難しいのが実情です。

MCIは記憶力障害を示す「健忘型MCI」と、記憶力以外の認知機能障害を呈す「非健忘型MCI」の2つの病型に分類されます。

MCIの段階で既に側頭葉内側の海馬・海馬傍回の萎縮がみられる場合は、その後のアルツハイマー型認知症の発症が強く懸念されます。

MCIから認知症への進展予防のために有効なものとして、ドネペジルの認知機能改善効果を挙げることがありますが、科学的根拠はまだ十分ではありません。

MCI患者が将来必ず認知症を発症するかといえば、そうではありません。そのような予測は社会にいたずらに不安を与えるだけなので、長期的な医学的検証や個々の患者の個人的な価値観など検討をして、エビデンスに基づいた疾患概念(evidence based medicine)や物語と対話に基づく医療(narrative-based medicine)の確立が待たれます。

検診において、単にMini-Menta1 State Examination(MMSE)などの点数が基準値(cut-off値)以上であるから認知症ではないと判断するのではなく、臨床場面でアルツハイマー型認知症などが強く疑われる際には、専門医による神経心理学的検査や脳画像検査、バイオマーカー検査などを早期に行うことが、早期発見の方法として望ましいと考えられています。

アミロイドPET検査、タウPET検査、脳脊髄液バイオマーカー検査(総タウ蛋白、リン酸化タウ蛋白、アミロイドβ42)で脳内のアミロイドやタウ蛋白の蓄積状態が分かり診断に有用ですが、検査できる施設は未だ少ないのが現状です。

MCIと診断された後に認知機能は正常だと判定された人(リバーター:開放者)の割合(リバート率)は、14~44%と報告により大きな幅があります。リバーターには、うつが改善した人のほか、診断を契機に脳活性化プログラムを取り入れたりして生活習慣を見直した人などがいます。

認知機能の低下を予防するための非薬物的アプローチ(生活習慣病や食生活の改善の指導、運動や知的活勤などの奨励)は、MCIの全患者に導入されるべきです。

MCIの治療として身体疾患、特に動脈硬化性疾患の発症へのリスク抑制が重要で、これはアルツハイマー型認知症の危険因子に関する研究から指摘されました。

動脈硬化性疾患の発症リスクを飛躍的に増加させる身体疾患として、肥満、耐糖能異常、脂質異常症(高脂血症)、高血圧が集積した病態(メタボリックシンドローム)が注目されています。

また最近では、脳血管障害は血管性認知症のみではなく、アルツハイマー型認知症の危険因子とみなされるようになっています。脳梗塞再発予防薬の抗血小板薬シロスタゾール(商品名:プレタール®)や抗てんかん薬レベチラセタム(商品名:イーケプラ®)のMCIへの有効性が示唆されていますが、まだ保険適用にはなっておりません。

インスリンやインスリン分解酵素とアルツハイマー型認知症の原因物質と目されるアミロイドβ(Aβ)がMCIに関係していることも示されています。

脳内インスリン抵抗性(正常な血糖値を保つのに必要なインスリン量が増加した状態)によって、アルツハイマー型認知症の原因物質と目されるAβの脳内沈着が促進されるといわれています。

※本記事は、2018年5月刊行の書籍『改訂版 認知症に負けないために知っておきたい、予防と治療法』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。