「体重が1か月で3kg減ったのです。主治医の先生にそのことを言ったのですが、年のせいだ、あなたは神経質すぎると言われました」。

その日受診された82歳のMさんは元来細身な方です。それにしても1か月に3kgの減少は減り過ぎです。前回受診された時に受けられた血液検査の結果を見せて頂きます。体重減少に結びつくような血液の異常はありません。

唯たった一つ血糖値が245と高い値を示しています。過去のデータを見ます。今まで一度も血糖値が高かったことはありません。今回だけです。

「急激な体重減少、急激な糖尿病の悪化、出現の時は膵がんを疑え」。

そんな言葉が頭を過ります。そのつもりで診察を進めますと左腰を叩くと痛みがあります。また丹念に探ると上腹部にしこりが触れるようです。その日のうちに結果は判明しました。Mさんはやはり膵がんでした。

がんのため胆汁の流れる胆管と膵液の流れる膵管が狭窄され、もうしばらくすれば誰でもが異常と気づく黄疸が出現するところでした。

同じように膵がんだった62歳のOさんも症状はただ一つ急激な体重減少でした。体重減少を何度も担当医師に訴えたにも拘わらず対応して貰えず、受診された時は既に末期の状態でした。この2人の場合は患者さん自身が体重の異常減少に気づいています。

療養病棟に入院されていた82歳のKさんは糖尿病があります。脳梗塞を繰り返しておりあまり言葉も出ません。回診していてKさんは以前に比べ痩せたように思いました。気になって検査した結果やはり肝臓に腫瘍が認められました。

体重測定は誰でもが手軽に行うことができます。体重増加に対する心痛が生じる以外測定に伴う苦痛はありません。何よりも一度体重計を購入すれば測定による費用はかかりません。でも体重の変動は健康度の指標となります。

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『新・健康夜咄』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。