Chapter5 対立

その後、ワンボックスカーの中を改めた。工具箱やバッテリーなど、使えそうなものがたくさんあった。車はエンジン部分が切断されて動かないが、車体そのものはアイデア次第で活用できそうだった。

大学生らが車体のいろいろな部分に触れ「これはどうする?」「これは使える?」など、意見を交わした。そんな中、早坂と沼田は終始むすっとしていた。誰もがそれに気付いていた。

盛江などは「協調性の無い奴らだ」と腹の底を煮えくらかしていた。しかし今喧嘩をすると決定的になってしまいそうで、グッと我慢した。

本当は言いたいことを言い合った方が後に引きずらないのかもしれない。しかし、盛江は自分が口で早坂や沼田に勝てないことを分かっていた。

探検隊の帰還から五日後の朝、林らが予想していた通り、ユヒトらが笹見平に遊びにきた。
柵の壁に空けられた入口で、ユヒトらは目を丸くした。出迎えた林らが全員口に布を巻いていたからだ。

林はユヒトらの驚きをできる限り和らげるために、目元に満面の笑みを浮かべた。そして「アリガトー」「オツカレサマー」と、前に教えたカタコトの日本語を連発した。ユヒトらはマスクに強い違和感を覚えたが、林が相変わらずの明るいことから、とりあえず笑顔を返した。

それからしばらく、ユヒトらは三日おきくらいに遊びに来た。笹見平はユヒトらとの意思疎通をよくするために、彼らにたくさんの日本語を教えた。若い縄文の若者たちの吸収は驚くほど良かった。その中で、林らはマスクをしている理由をちゃんと伝えようと試みた。

「ぼくたち、きみたち、なかよし、つづける」
「なかよしつづける!」ユヒトの目が輝く。
「びょうき、こわい。これ、ひつよう」

ユヒトは「びょうき」と「ひつよう」のつながりがいまいち分からないようだったが、林の真剣な目に「たぶん何か理由があるのだろう」と、ウンウンうなずいた。