メーカーが自身で出来るようになったら商社は不要というのは、恩知らずもはなはだしい。しかし同時に、それは当たり前の流れとも思う。やはり新しい価値を開発しなければ商社は生き残れない。物資を売るというよりサービスを売ることで商社の付加価値を高めなければならない、高倉は何年も前からそう感じていた。だがそれがなかなか出来なくて、ジレンマと無力感を味わってきた。

「斉藤さん、新品タイヤとリトレッドのパッケージ・サービスの推進をあなたの第一の役割として、ヤング・ライオンズと販売店の巡回指導をして下さい。私もそれに出来るだけジョインします」

「わかりました。巡回訓練キャラバンを早速やりたいと思います。その他に私が重点的にやるべき課題は何でしょうか?」

斉藤は張り切っている。

「もう一つのあなたの役割は黒人従業員の教育訓練です。アパルトヘイト時代に彼らは十分な教育を受けることが出来ませんでした。だから現政府の方針で、彼らの訓練は義務づけられています。我々がやるべき訓練として具体的には、タイヤとその関連商品に関する知識、技術知識、実技、そして一般教養を身につけさせることだと思います。斉藤さん自身で出来ない部分は、専門家を雇っても良いです。とにかく教育には会社として力を入れたいと思っています。そしてそこから優秀な人材を発掘したいのです。宜しくお願いします」

「わかりました」
斉藤は力強く応えた。

高倉はあらためて確信した。

斉藤をニホンタイヤから派遣してもらったのは正解だった。彼はきっと我々の力になってくれる。自分が若かった頃に、海外でニホンタイヤの技術サービス員に同行させてもらって色々な国の顧客をまわった。この時に、技術面だけではなく、顧客サービスの点でも、すごい力を感じた。

ニホンタイヤは技術サービスの力をもっと広く活用すべきだと思ったものだ。それが今、我々七洋商事のビジネスに活用させてもらおうとしている。ありがたいことだ。

ヤング・ライオンズ軍団を中心にした拡販と斉藤和夫のリードによる教育訓練をおしすすめながら、一方で、高倉は一般従業員の削減に手をつけ始めた。リストラという手法は取らずに。

マキシマ社が全国に展開する九十七か所のタイヤ販売店と二十のリトレッド工場の統廃合を進めた。

統廃合によって販売店は一店舗当たりの売上げや販売生産性アップにつなげる。一方、工場は一工場当たりの生産量と生産性向上を狙ったものだ。

この付随効果としての、自然な人員減を目指した。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『アパルトヘイトの残滓』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。