63才の入院患者が屋外療法実施中行方不明となり、2日後、同病院から500メートル離れた国有林の沢の中で死体となって発見された。患者は、国有林で死亡したのに、死亡場所を同病院とする死亡診断書を作成、行使したとして、院長が、医師法違反、虚偽診断書作成行使で起訴されたものである。

裁判所は、「医師法にいう死体の異状とは単に死因についての病理学的な異状をいうのではなく死体に関する法医学的な異状と解すべきである。したがって、死体自体から認識できる何らかの異状な症状ないし痕跡が存する場合だけでなく、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況、身許、性別等諸般の事情を考慮して死体に関し異状を認めた場合を含む。

何故なら、医師法が医師に対し、所轄警察署への届出義務を課したのは、当該死体が純然たる病死(自然死)であり、且つ死亡にいたる経過についても何ら異状が認められない場合は別として、死体の発見(存在)は往々にして犯罪と結びつく場合があるからである。」と述べている。

ここに言う法医学な異状というのは、判旨に照らせば、死体発見のいきさつ、死体発見場所等のことであり、いわゆる変死体のことである。いわゆる診療関連死を対象としたものではないと解すべきであろう。

八王子支部判決は、医師法第21条にいう異状死体の判断について、「経過の異状」の根拠とされて来たが、その判旨は、必ずしも、「経過の異状」を判断根拠としているとはいい難い。

また法医学的異状に関しても、単に死体の発見場所・状況を考慮するように述べたものにすぎず、変死体についての判断を示したものと思われる。診療関連死に妥当するものとはいい難いであろう。

また、前述したとおり、「経過の異状」は、東京都立広尾病院事件控訴審である東京高裁により破棄された。東京高裁は、医師法第21条を合憲限定解釈し、判断根拠は「外表異状」としている。

医師法第21条は「外表異状」で決着したものと言えよう。

※本記事は、2018年12月刊行の書籍『未来の医師を救う医療事故調査制度とは何か』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。