セットリストNo.2(第二章)

15 EmergencyCool & The Gang

別のあるときには、5階に住む友達の部屋でやってるとき、またしても「窓の外に人が居る」と、言い出す奴が居た。

くもりガラスの向こうに、ベランダはない。人が立っていられる場所はない。

本当に居るのなら、『浮かんでいる』以外には考えられない状況だった。翔一がそれを説明しても、本人は聞き入れない。

「いや、誰かが居た! 俺にははっきり見えた」と、言い切ってしまう。傍目に見ても、彼はヤバイ状態に陥っている。

そう認識せざるを得ない、それを判断するポイントは、目を見てみればわかる。焦点が合っていない。

こうなってしまうと『見間違い』や『思い込み』などという常識的な解釈は全然、当てはまらない。翔一たちは、そういう状態の奴等をさして『イッチャッタ奴』と呼んでいた。

今になって考えると、『人間やめますか?』というほど大袈裟なものではない、経験のない人たちが、思っているような、S(覚醒剤)が、なくなったらそれを得るために誰もが、他人に危害を加えたりするようになるわけではなく、1度やったらもう止めることはできないというのも、それほど正解とは言えないと彼は思っている。

彼がしてきた今までの経験から言えば、たまに世間をざわつかせる『ドラッグ絡み』の事件を引き起こしてしまう人間は、いわゆる『イッチャッタ奴』なのだ。翔一は、あまり長く、Sに『ハマッタ』という自覚は持っていないが、それでも『何度か』と言うのは『違うだろう?』というぐらい、使った経験がある。しかし、それでも彼はそこまで『イッチャッタ状態』を経験したことはない。