第1章 医療

疑え

医療費の高騰を抑えるためには無駄な検査を行わないことが大切です。紹介して頂いた患者さんも前医で検査を行っている場合は出来るだけ同じ検査は行わない。でも時にはそんな配慮が落とし穴になることがあります。

消化器系の腫瘍マーカーであるCEAが上昇しているとの紹介状を携えてMさんが受診されました。画像検査で腹部のリンパ腺が腫れています。肩の痛みは骨への転移かも知れません。前医では胃の内視鏡検査を行っており異常はなかったとの文面です。

肺がんもありません。それなら大腸が疑わしい。そのようにお話しし検査を予定しましたがキャンセルして来ました。

痛みのためMさんが再受診されたのは初診から2か月も経ってからでした。肩の変化はやはりがんの骨転移でした。今回はMさんも覚悟を決め大腸内視鏡検査が行われました。しかし良性のポリープが認められただけでした。

異常ないということでしたがMさんを説得し今一度胃の内視鏡検査を行わせて頂きました。危惧したように結果は胃がんでした。がんの部分が胃の粘膜の陰になり上から観察しただけではわからないようになっていました。

医師になったばかりの頃「前医の診断は信用するな。自身の目で見て耳で聴き触って診断しろ」と先輩から教えられました。先入観に捉われず白紙の状態で診療に臨みなさいという教えであったのだろうと思います。

医療機器の普及により内視鏡検査や超音波、あるいはCT、MRI検査すら備えた開業の先生方も増えました。これらの医療機器はただ聴診や打診、血液検査を行うよりもはるかに大きな情報をもたらします。

しかし、そうして得られた情報をどのように読み取り解析するかはかなりの知識と経験が必要なように思います。