一九一八年(大正七年)大審院判決と異常死体

旧法である医師法施行規則第9条の判決として、大正七年大審院判決がある。一九一八年(大正七年)大審院判決は土砂による圧死の頭蓋骨骨折事例であり、『外表異状』事例である。本事例は被告人医師が、頭蓋骨骨折で死亡した明らかな『外表異状』事例に死体検案書を発行したものである。

死体検案書を発行したにもかかわらず、病名を頭蓋骨骨折、死因を病死、死亡場所を患家の自宅とした記載の不整合事例である。大審院判決のみで、一審、二審の判決文がないため、その内容は不明であるが、大審院は上告を棄却している。

大審院判決によれば、本事例は、診療関連死ではない死体の検案事例であり、明確な『外表異状』事例であるにもかかわらず警察への届出を行わなかった事例である。死体検案書の記載の整合性の無さが敗訴の原因と言ってよさそうである。

大正七年大審院判決については別項で詳述したいが、本判決は、上告趣意書を引用しながら、漢字を使い分けることによって「死体」の意味の違いを区別して述べている。

本判決は、「所論は……」と述べながらも、その内容を詳述しているところから考えると、論旨には、弁護側主張を取り入れた内容であると考えられる。

論旨は、広い意味の「死体」には、山崎佐同様『死屍』。山崎佐が「常識で判断」とした死体の定義については、「誰が見ても死亡していることが確実で、死後多少の時間を経過した死体」とし、『屍體』の文字を当てている。

その上で、警察に届出義務のある『死體』とは、①医師の診療を受けていない人の死體で、②誰が見ても死亡していることが確実な『屍體』であって、③検案して『異常』を認めたものとしている。

ここに言う『異常』とは、「犯罪の疑いのあるもの」の意味である。大審院判決は、変死体についての犯罪捜査協力のため、警察に届け出るべき死体の定義を明らかにしたものと言えよう。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『死体検案と届出義務 ~医師法第21条問題のすべて~』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。