「えっ、白人と黒人で給料がそんなに違うのか……それはおかしいぞ」
「黒人は下働きが主体ですからおのずとそうなると思います」
「そうかもしれないが、同一職種は同一賃金という考え方で分析する必要があるな。それはそれとして、現在三千人の従業員を二千五百人体制にしなければならないということだな。問題はどうやって実行するかだ……」

彼らはコーヒーを飲みながらじっと考え込んだ。外にはとっくに夜の静寂(しじま)が訪れ、他のスタッフは皆退社し、静まり返ったオフィスには二人だけしかいない。

塀の向こうの道を通る黒人の白い歯がうごめいているのだけが見える。歌をうたっているのだろうか? 彼らのリズム感は天性のものだろう。実にリズミカルに動いている。

窓のカーテンを閉め、しばらくの沈黙の後に秋山が口を開いた。

「人員削減するのには、インセンティブをつけて早期退職を募ることになるでしょう。ポストを無くして強引に首を切るのも、この国では出来ないことではないです。但し黒人を解雇するのは難しいと聞いています」
「リストラはやりたくない。それをやったら従業員のモラルが落ちて、商品を売る気も失せる。人件費は下がったが、売上げも下がるのでは意味がない。この会社を立て直すには経費を落として、しかも売上げは伸ばさなければならない。従業員のモラルを下げずに人件費削減をしていく必要がある。それをどうやってやるかだ。あまり時間はないが、もう二、三日考えてみよう」

そうして彼らはこの夜は引きあげた。