溝口:ガンの患者は特に検査費用や治療費が想定外に発生するケースが多く、さらに大きな病院に対しては厚生労働省により医療費の上限が設けられています。入院中に抗ガン剤治療や画像診断などにかかる費用は相当なものです。

当然ながら追加費用としてどんどん加算されていき、その上限を超える費用が発生します。そうなると、その分が病院側の負担となり、赤字として計上されていきます。で、もうこれ以上赤字になると困るので「退院して通院という形でお願いします」となるわけです。

じゃあ退院して外来で抗ガン剤治療や検査した場合はどうなるのか? その都度、患者に医療費が請求できます。

もうおわかりになったと思いますが、通院させた方が病院側のメリットが大きい。経営的な観点からいうと、こういう通院患者をたくさん作りたいでしょうね。最近、点滴外来センターなどが増えていますが、こういう理由からだんだんそういう流れになってきているのは事実ですね。ある医療ジャーナリストが指摘したことは的を射てますよ。

中村:なんだか、飲食店の常連客作りみたいで嫌ですね。

溝口:そこなんです。今の患者にわかってほしいのは。病院も普通の企業と同じで、ちゃんと予算があって損益分岐点があって、常に収支を考えながら運営していく一企業なんです。なるべくコストがかからなくて定期的に通院してくれる患者ほどおいしい。そういう患者こそ、飲食店などの常連客と同じ意味合いを持っています。

たとえば、透析をメインにやっている病院の場合などはわかりやすいと思います。人工透析患者の年間負担費は約1万円ですが、保険から支払われる医療費は年間500万円ぐらいだそうです。病院経営という意味ではほとんどハズレはありません。透析は機械がやってくれるので人件費もかかりません。患者を50~100人程度キープしていれば安泰です。

現行のルールのままでできるかどうかは別として、本当に患者のためにやるべきことは、極端な話になりますが、腎臓移植か簡易AI透析装置(レンタルもしくは買い取り)で透析をやってもらうのがベストです。なにせ、通院時間や待ち時間、透析にかかる時間(一日に3~4時間。週に数回)などを合わせると一週間のうちに相当な時間を拘束されることになります。

それを人生というスパンで考えると、どれくらいの時間を無駄にすることになるか。考えただけでも胸が痛みます。そういった人工透析患者の負担を少しでも軽減させようという動きを、医者側からムーブメントを起こしていってほしいですね。しかし、人工透析の診療報酬も高いし、安定収入源として貴重な患者でもあるのでどこまでやってくれるか、はなはだ疑問ですが。

中村:お医者さんたちには、そういう動きをもっともっと活発にやっていただきたいですね。

溝口:とはいえ、「すぐに死にはしないが治らない病気」、「生活習慣病」は儲かるというのがこの世界の金づるであり、常識なんです。慢性疾患、糖尿病や高血圧、人工透析の患者がそこそこいれば儲かります。だから常連さんは手放したくないし、「どんどん常連客(患者)を作っていかないと」という利益優先主義になっていくんです。

そういう意味では、こういう流れを良しとするというか、製薬会社もホクホクだと思いますよ。だから、治せない、治さない、治らない……という開業医が後を絶たないんです。

中村:そうなんですか。

※本記事は、2019年4月刊行の書籍『ゴッドハンドが語るスポーツと医療』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。