発情した雌を、跳び箱のような擬台(ぎだい)の向こう側へ連れてゆく、お尻をこちらへ向けて立たせる。

そこへ種オスが来る。先程から「ウモー」「ウモー」と発情した雌の切ない鳴き声を聞かされて半狂乱、獣医を引きずりながら、恐ろしい力で突進してくる。一度は擬台を避けて、メス牛の後ろまで来るが、雌の尻の臭いを嗅ぐのが精一杯。「鼻ぐり」を引っ張られてまた擬台の正面へ戻る。

再び擬台を避けて雌の方へ行こうとするが、抵抗はそこまで。

オスのアソコはメスの臭いを嗅いで爆発寸前だ。一・五トンの巨体がドドッと擬台に乗りかかる。獣医が素早くペニスの先を採集器の入り口にあてがう。「牛の一突き」八〇センチほどのピンク色のサーベルがガラス管の中に仕掛けられた、ゴム袋の中に突き刺さる。その瞬間反対側からガラス管の中のぬるま湯がドッと流れ出す。ゴム袋の中は真空となり、その中に精液が溜まる。種牛はゆっくりと擬台から降りる。

「よーし、よくやった」獣医がねぎらう。

メス牛のソコにステンレスの膣拡張器(ちつかくちょうき)を入れ、長いガラス管の付いたスポイトで肉眼でもはっきり見える子宮に採取した精子をプチュッと入れる。

不思議なことに、家路につく頃には雌牛はすっかり落ち着きを取り戻し、満ち足りた顔をしていることだ。彼女はあのステンレスとスポイトのプチュッで十分に納得したのである。

何と物分かりのいい女振りではないか。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『お色気釣随筆 色は匂えど釣りぬるを』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。