第二章 釣りもアレも人間は新奇好き

雌牛の切ない声に、牛の一突き

知人にコリー犬を飼っている人がいて、この犬が発情した。オイラが友人を介してブリーダーを紹介したところ、二日後知人の奥さんが、ポラロイド写真を持ってやって来た。簡単なお礼を言ってから、

「大型犬でしょう、すごい迫力でもうタジタジ」

尻を合わせた写真は生まれる子の血統書証明用とか。交配料は、本来一〇万円のところ、紹介だから六万円。

オイラの実家は農家で、当然のことだが牛を飼っていた。

いつもは牛小屋の奥で、「ウムー」と低く唸っていた雌牛(めうし)が、発情するとたちまち「ウモー」「ウモー」と連続して高い声で鳴くようになる。その違いは素人でも直ぐ分かる。

近所の馬喰(ばくろう)を呼ぶと、後ろに回って、メス牛のソコを指で広げて観察、交配適正日を指示してくれた。

種畜場(しゅちくじょう)へ予約して、連れて行く。いつもはノッシ、ノッシと歩く牛が、「ウモー」「ウモー」「早くオスに会いたい、我慢できない」と飛ぶように歩く。

当時は種畜場に種牛の精子を低温保存する設備がなかったから、その都度種牛から採取して対応した。

牛の心情を考えると、生でと思うのが人情だが、種オスがメスの三倍近くもあり、これでは雌が潰(つぶ)されてしまう。それに自然交配だと失敗がある。