患者さんの所持品や立ち振る舞いなど細かいところまで見逃さないように心がける。ちょっとしたことが会話のきっかけになり、患者さんとの距離が一気に縮まることもある。人と関わる上で相手を知ることはとても重要だ。

「先生は何年目?」
「3年目です」
「まだ医者になりたてか」

患者さんの中には、若い医者が担当医ということで不安や不満を持つ方もいる。これは仕方がないことである。

僕も逆の立場だったらたぶんそう思うだろう。ただ、そんな中で少しでも僕が担当で良かったと思ってもらえるように、患者さんには丁寧に接するよう心がけた。

「分からないことも多いですが、聞いていただければなんでも調べてお答えします」
「麻酔って痛い? 途中で起きちゃったりしない?」
「麻酔がきいてくると、知らないうちに眠ってしまうので痛くないと思いますよ。途中で麻酔から覚めてしまった人も見たことがないので大丈夫です」
「良かった。こんなこと先生には聞けなくて」
「僕も先生なんですけど」

丁寧に接していると患者さんも心を開いてくれて、本音が聞けたり冗談が出たりすることもある。そんなやりとりをしている時、僕は密かにやりがいを感じる。

「ある程度威厳を持って接しないと舐められる。舐められたら何を言っても聞いてくれない。舐められたら終わりなんだ。気をつけろよ」

以前ある先生にこう言われたことがある。確かに一理あるかもしれない。実際にクレームをつけられてトラブルになったり、担当を降ろされたりする医師も少なくない。

特に僕の場合は自分ではそんなつもりはなくても上の先生から「おどおどするな」と言われることがある。舐められやすいのかもしれない。

しかし、僕は自分のスタイルを崩すつもりはなかった。舐められようが舐められまいが自分のやるべきことをやると決めていた。

「今日は1日どうでしたか」
「病院のコンビニまで歩きました」
「すごいですね。早く退院できるように頑張りましょうね」
「先生、夜遅くに来てくれてありがとうございます」

基本的に僕たちは弱っている人を相手にする。高圧的になっている人も、クレーマー扱いされる人も、その家族も含めてみんな手術の前後で弱っている。

全ての患者さんに雨で濡れて飛べなくなったスズメを投影する。そっとタオルで拭いて乾かしてあげるように接する。そのスズメが弱ってしゅんとしていようが、医者を警戒してピーピー泣こうが、僕のやることに変わりはない。

※本記事は、2020年7月刊行の書籍『孤独な子ドクター』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。