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かなりの時間をここで使ったとみえ、再びカジノに戻ると、今やたくさんの客で溢れ返っていた。帰り際のこと、先ほど所在なげに声をかけてきた例の女性ディーラーと目が合った。

[どお、私の言う通りでしょう。やっていかない?]とでも言いたげな目つきを返し、たくさんのお客を相手に忙しそうだった。しかし宗像にとっては、今やそれどころの騒ぎではなかった。

ポルトガルを早々に切り上げ、ロンドンを中心に、フェラーラを調べてみようと思っていた矢先、よりによってこのエストリルでフェラーラの絵に出会ってしまった。まだポルトガル滞在の初日だというのに、頭を後ろから一撃されたような劇的な出来事だった。

ホテルの部屋に戻ると、ショックと興奮からか軽い頭痛を覚えた。頭痛薬を取り出すために、ショルダー・バッグの内ケースを開き、中袋に手を入れようとしたとたん、何か尖ったものに触れたらしく、慌てて手を引っ込めた。中袋を押し広げて内部を見ると、四角い紙の角に手を引っ掛けたことが分かった。

引っ張り出すと、それは薄汚れた黄色い洋封筒だった。ロンドンのギャラリー・エステでコジモから渡された例のものである。それはシールされておらず、閉じ封部分を内側へ折り込んだだけの封筒だった。手を差し入れてその部分を表に引き出すと、中から一枚の古い絵葉書が現れた。