力ない声をきいて、ここへ来たことをいくぶん後悔した。こっちはしゃべることで少し楽になるが、石媽(シーマー)には、よけいな荷物を負わせてしまったかもしれない。

「すまんな、邪魔して」
「……あんたも気をつけてね」
「仕事で、外に出ることはないのか?」

女を外出させるような組織ではないとわかっていながら、訊いた。

「ほとんど、ないよ。外まわりは段惇敬(トゥアンドゥンジン)がやるからね。こわいのは、漁門のそこかしこにいる少年よね。気づいたら、こっち見てる。ここへ来たばかりのころは、あたしの子供とおなじくらいかなぁなんて思って、仲よくなろうとしてたのよ。でもあの子たち、ひとっこともものを言わないでしょう」

「そういうふうに、しつけられているからな。あれも、私家版の東廠だ」

「人間の子供が、あんなふうになっちゃうなんてね……よっぽどひどい目にあってるんだろうね。反抗できないくらいにね」

きっと、石媽(シーマー)の言うとおりなのだろう。あの子たちも、もとはさらわれて来たのかもしれない。調教をほどこされて、感情をなくし機械仕掛けのようになった子供だけが、生き残っているのかもしれない。そう考えれば、飛蝗(バッタ)も、私たちとおなじ、籠のなかの鳥なのだ。

「でも、あの子たちだぞ。わしらの言動を逐一見張って、報告してるのは」
「わかってる」
「何か、されたこと、あるのか?」
「ないよ。でも、ほかの従業員がものすごい勢いでなぐられてるのを、見たことがある」

「飛蝗(バッタ)が? いや、少年がなぐってたのか?」
「いや、段惇敬(トゥアンドゥンジン)の手下―だろうね。少年は手引きしただけ」
「そうか……」

長い沈黙のあと、石媽(シーマー)が思い出したように言った。

「あんた、朝、やめずにここで働いたほうがいいって言ったじゃない? あのあと、管姨(クァンイー)にとっちめられなかった?」

「なんで、そんなことをきくんだ?」
「少年が告げ口してるとこ、見ちゃったから」
「う……」

私は急に、世界がぐるぐるまわってゆくような感覚におそわれた。