が、ある日を境にしてそれ系の薬物から一切の手を引いた。3年以上も前のことだ。

彼がその頃に経験したことを思い出してみてもいいことがあったとは、間違っても言えない。現在、翔一の持つ感想として言うなら、Sもコカも好きなドラッグとは言えない。

「それで、新二のほうには需要があるの? お客は、居るの?」

翔一は訊いた。

「それがさぁ、結構みんなにアッチのほうはないの? って訊かれるんだよ。俺としてはこの話、やってみてもいいと思うんだけど」
「じゃぁ、俺に訊くまでもないことじゃん」

はっきり言って、この話にあまり乗り気じゃない翔一は、つい冷たい言葉を、口にしてしまった。

「そんなに、怒んないでよ。あまり、派手にならないようにするし、なるべく俺が動くようにするからさ。翔ちゃんは声だけかけといてよ、お願い」と新二が言った。
「わかったよ」

自分との付き合いが、とてつもなく長い新二には、翔一にとって、どのドラッグが嫌いな(できれば、そばに置いときたくない)ものなのか。その答えも当然、知っているはず。知らない訳がない。

それでも頼むからには、『金以外のなにか』があるんだな。確信はないけれど翔一には、それが感じられた。だから、了解した。

その話のあと、ワイズベイサイドクラブで聞いたチーフDJ・ミックからの話を、新二に説明した。取り扱う量と品物の種類が増えれば間違いなく、この身の危険も増大する。限りなく。

そのことを強く認識していても、今すぐそれら危険性の全てをキャンセルすることのほうが困難なことだろう、たぶん。それも、解っていた。

※本記事は、2017年9月刊行の書籍『DJ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。