そのためか前述のように御家族が問題集を持ち込むことが多くなりました。漢字の書き取りばかりでなくパズル、塗り絵など様々です。誰もが経験し見慣れた物です。

ただ成長過程での問題集は知的レベルを高めるためのものでした。現在は知的レベルの低下を防ぐ目的なのです。

認知障害と共に大きな問題は運動障害です。特に脳血管障害や大腿骨骨折、脊椎の障害などから生じる歩行障害は生活機能を低下させる大きな要因です。

歩く練習、これも私達が幼児期に経験して来たことです。ただ成長過程での歩く練習とは異なり現在は生活機能低下を防ぐための練習です。

さらに認知障害、運動障害と共に大きな問題は摂食嚥下障害です。食べると誤嚥する。あるいは食事を拒否し食べて頂けない。嚥下訓練や食事時の体位、食べやすい形状など、様々に工夫しますがそれでも食べて頂けない。あるいは食べられない。そんな時は治療する方も途方に暮れてしまいます。そして訪れる終焉。

生誕して私達はまず食べることから成長が始まります。よちよち歩きの歩行練習、オムツはずし。そして教育により知的にも成長して行きます。それに対し知的レベルが低下し、歩行障害が続き、失禁、食べられなくなり人生の終焉を迎える。この過程は戻り道のように思えます。

最先端の研究では知的能力も運動能力も加齢に関係なく成長し続けることが明らかになっています。しかしそんな研究とは異なり、医療の現場にいると折り返し点があるように思います。その折り返し点がどこにあるのかは人により異なります。

脳血管障害や生活習慣病などが折り返し点を早めることは間違いありません。出来ることなら折り返し点がなく歩き続けたい。それが無理なら、せめて折り返し点を遠くへ持って行きたいものです。

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『新・健康夜咄』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。