一般常識と英語の筆記試験、それと面接試験があった。澄世の願いは叶い、S社に受かった。

平成元年、卒業するとすぐに、東京の品川のホテルに缶詰にされ、研修を受けた。澄世は生まれて初めての上京だった。

銀座にあるS社のショールームを見学し、先輩の話を聞いた。帰阪すると、大阪の心斎橋にあるS社のショールームに配置された。習ったように、美しく立ち、口角を上げて微笑み、客の案内をした。

朝は遅く出勤し、夜は七時を過ぎる勤務体制で、とにかく一日の殆どが立ち仕事で、澄世にはきつかった。疲れて息苦しくなると、関係者だけが出入りするバックルームへ入り、こっそり喘息の吸入メプチンエアーを吸った。有給休暇は全部使った。

同僚は派手なタイプが殆どで、澄世は完全に浮いていた。皆、ルイ・ヴィトンかシャネルのバッグで通勤しており、ブランド品と男の話をした。

澄世はブランド品は何も持っておらず、給料の殆どを家に入れていた。皆、大学時代からとっくに彼氏がいて、それでも合コンを楽しんでいた。

澄世が彼氏歴がないと言うと、皆がもの珍しそうに距離をおいて接した。澄世は毎日が仕事だけで体力的に精一杯なので、合コンには行かなかった。

ここは社員と言っても、一年契約の更新制だった。殆どが三年ほどで、結婚退職して行った。