「ねえ、ねえ、紅林先生に会ったわよ」、晴はにやりと笑い「男の人とね……」「どんな人?」美津が静かに尋ねた。

「とっても素敵な人だったわよ」晴は口いっぱいのきんつばをモゴモゴとさせ、美津の顔を覗き込んだ。「それでね、その人って……」こんなときの晴は目の輝きが違う。

「背が高くて、髭生やして、フロックコート着て、山高帽かぶって」

晴は身振り手振りで、その紳士の真似をして戯けた。

「ハイカラだったよねー」

多佳はうっとりする。

「うん、ハイカラ」
「こう、知的で」
「うん知的で」

入学当初あんなにも泣き虫だった晴が、今ではみんなと打ち解けてはしゃいでいる。喜久は湯呑みを用意して並べた。

先生の事件を後から知らされるなんて、先を越されたようでちょっぴり悔しい。淹れたお茶を飲みながら、きんつばを一口食べた。

「上品な人よね」

急須を傾け、多佳はうっとりとどこかを見つめている。

「紳士って、ああいう人のことを言うのよね」

晴はまたきんつばを頰張った。

「で……紅林先生は?」

美津は、男の容姿も気になったが、憧れの紅林先生のことが知りたかった。

「恥ずかしそうにしていた」

多佳は湯呑みを喜久の前に置き、美津にそっと手渡した。

「こう、ポアッて、頰を紅く染めてさ」
「寄り添うように、後ろから……」

晴は口をモゴモゴさせて言うので、喜久はキッと睨みつけた。

「誰なのかな」

じれったそうに言う美津は、紅林先生のことが気になって仕方がない。

「これは事件よ」

晴が三人を見渡した。

「紅林先生、あの人と結婚しちゃうのかな」

その言葉にぎょっとして、美津は多佳を見た。

「そりゃ、あの美貌だもの」
「鄙(ひな)には稀な」

晴が浄瑠璃の調子で言うと、多佳が

「掃き溜めに鶴というか」
「掃き溜め!」

ちょっとそれはひどい。二人の毒舌は放っておくと限度を知らない。

美津が助けを求めるように喜久を見ると、彼女も困ったような顔で笑っている。いや、この状況を、美津と喜久は吹き出しそうなのをがまんして楽しんでいるというのが本当だ。

※本記事は、2018年3月刊行の書籍『ブルーストッキング・ガールズ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。