したがって、皮膚(外表面)が人間として正常ではないが、死体としては問題ないと考えられる外表面の状態(普通の状態)を医師法第21条は『異状なし』という単語で表現したと考えられる。つまり、『異状なし』が普通の状態である。

変死を疑われる死体(死体発見場所、状況等諸般の事情に『異常』がある死体)を検案(外表を検査)する場合は、これらを念頭において検案(外表を検査)して『異状』があると認識した場合は届け出ると読むべきであろう。

本通知は、変死体について、「医師が死体を検案するに当たっては、死体の外表面のみの異状ではなく、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況等諸般の事情が『異常』であれば、これらを考慮して検案し、外表に『異状』を認める場合には、医師法第21条に基づき、所轄警察署へ届け出る」ということであろう。厚労省は誤解を招かぬよう明瞭にすべきであると考える。

また、通知の前書きで例示している「熱中症」の届出義務は、現場の混乱を引き起こすのみで甚だ不適切である。「熱中症」を外因死と捉えたとしても、そもそも、「異常死」と「異状死体」を区分して適切に改訂した二〇一五年度版死亡診断書記入マニュアルを再び、両者を混同した問題記述に後戻りさせることになる。

「熱中症」対策が不要と言っているのではない。「熱中症」を届け出るとすれば、保健所あるいは都道府県等への『連絡』とするのが適切であろう。決して、医師法第21条に基づく警察への届出義務であってはならない。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『死体検案と届出義務 ~医師法第21条問題のすべて~』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。