第1章 二〇一九年二月八日付け医事課長通知
「医師による異状死体の届出の徹底について」の衝撃と誤解の解消

(2)二〇一九年二月八日付け医事課長通知「医師による異状死体の届出の徹底について」の問題点

東京都立広尾病院事件判決
医師法第21条の判決としては、東京地裁八王子支部判決の他に、東京都立広尾病院事件地裁・高裁・最高裁判決がある。経過の異状説によると言われている東京地裁判決は、東京高裁で破棄された。

東京高裁は、「医師法第21条にいう死体の検案とは、医師が、死亡した者が診療中の患者であったか否かを問わず、死因を判定するためにその死体の外表を検査することをいい、死亡した者が診療中の患者であって、死亡診断書を交付すべきであると判断した場合であっても、死体を検案して異状があると認めたときは、同条に定める届出義務が生じる」とした。

また、「外表の明確な異状の認識が必要」とも述べている。最高裁は、この東京高裁判決を支持し、「医師法第21条にいう死体の検案とは、医師が死因等を判定するために死体の外表を検査すること」と述べている。東京高裁、最高裁ともに医師法第21条を合憲限定解釈した。

二月八日付け医事課長通知「医師による異状死体の届出の徹底について」
前述した『異状』と『異常』の使い分けを踏まえると、二月八日通知の「死体外表面に異常所見を認めない」との表現は不適切である。そもそも人間は健康が「正常」であり、皮膚の色が悪い、唇が紫色であるなど、健康な状態と比べたときに「おかしい」というのが異常である。死体の皮膚(外表面)はそもそも「異常」なのである。