「彼の名はリッキー・クバネ、僕のクラスメートだよ」

勇作と祥子は現在アメリカのボストンに住み、勇作はH大学院のMBA(経営学修士)コースに通っている。
リッキーはそこの同級生で、お互いに中間休みを利用してこちらに来たという訳だ。とはいっても長い休みは取れないが。

「おう、そうか、それでHマークの帽子なんだな。宜しく」

高倉が握手を求めると、リッキーはていねいに頭を下げ、

「私はジンバブエ人です。ヨハネスブルグに二日間いて、その後ジンバブエのハラレにいる両親の所で三日間ほど過ごす予定です」

と言って両手で握手に応えた。

「せっかくこんな遠くまで帰ってきたのに、長くはいられないんだな。ところで、ご両親はハラレで何をやられてるの?」

「父は元々ジンバブエの外交官で、ニューヨークの国連にいました。その関係で母も僕もそこに住んでいました。父はリタイア後、国に戻り、今はANC(アフリカ民族会議)のメンバーとして活動しています」

これはまさに渡りに舟だ、と高倉は思った。

「そうか、現在私のいる会社はジンバブエにも支社を出している。その内お父さんに会って現地の状況を聞きたいけど可能だろうか?」

「勿論ですよ。父も喜ぶと思います」

リッキーは住所と電話番号をメモして高倉に手渡し、そして別れた。

高倉夫妻は息子夫婦の滞在中、ヨハネスブルグの東方三〇〇キロメートルにあるクルーガー・ナショナルパークを訪れた。

ビッグファイブといわれるゾウ、ライオン、ヒョウ、サイ、バファローのすべてや、もちろんその他の様々な動物の自然の姿を見ることができた。ビッグファイブの中ではヒョウを見つけるのが一番難儀だったが、木の上にいるのが見つかった。

動物園ではない。動物の『自然の営み』を観察できるのは感動的である。

車をゾウに向けて走らせていると、ゾウが耳を広げて怒った。意外に狂暴な性格らしい。怖くなってあわててバックして逃げた。

シマウマの長蛇の列が道路を横断したときは、かなり長い時間じっと待たされた。五百頭ぐらいいたか。全頭全く同じ模様の体を見て、あらためてDNAの不思議を感じるが、人間の指紋と同じで、同じ模様はないらしい。

クルーガーパークで楽しんだあと、ザンビアとジンバブエの国境に跨るビクトリアの滝でずぶ濡れになったり、ザンベジ川のカバの群れに会ったりして、ほんの束の間の家族団欒を満喫した。

そして次男と義娘はボストンへ戻っていった。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『アパルトヘイトの残滓』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。