ここに毒をまき、その後、烏丸酒造に寄った。直接ポストに脅迫状を投函した可能性が高い。土地勘のある犯人だ。

車の走行音に気づくと、農道を白いハイブリッド車が、飛ばして来る。見る間に近くなり、玲子の乗って来た覆面車の後ろに急停車した。ドライバーが、弾き出されるように転がり出て、あぜを走り出した。ここに、来るつもりらしい。

「トミータさん?!」

知り合いらしく、秀造が眉をひそめ、彼の名を呟いた。

トミータと呼ばれた男は、まっしぐらに秀造に駆け寄り、叫び出した。

「烏丸さん、烏丸さん。大丈夫ですか?」

返事を待たずに、毒をまかれて枯れた田んぼに目をやった。

「こっ、これですね! うわあ、メチャクチャ過ぎる。いったい誰がやったんですか? こんな、恐ろしいこと」

小柄で、小太り。小ぎれいに刈上げた髪型は、清潔感満載。まん丸い黒目は離れ気味。低い鼻と相まって愛嬌ある顔は、ぬいぐるみの熊に似ている。瞳は、クリクリと忙しなく動き、勢いよく捲(まく)し立て始めた。

小男の勢いに圧され、秀造は言葉を発せない。ただただ、うなずいている。何かの拍子に、小男が玲子に気づいた。こっちに向き直って、サッと頭を下げる。

「警察の方ですね。県庁農林水産振興課の課長、富井田哲夫です。農水省から出向で、こちらに来ています。天津風の田んぼが、大変なことになってると聞き、取るものも取りあえず、真っすぐここに飛んで来ました」

一息に、説明し切った。練習していたかのよう、立て板に水だ。