第1章 認知症とはどのような病気か?

認知症によるもの忘れと加齢によるもの忘れの違いは?

認知症とよく似た言葉に「もの忘れ」(記憶障害)があります。本書では「ものわすれ」を「物忘れ」ではなく「もの忘れ」に統一しました。認知症ともの忘れの2つの言葉は使い分けてください。

確かに、認知症になると物事を忘れます。すなわち、認知症患者さんには必ずもの忘れがみられますが、もの忘れがあっても認知症でないことが多いのです。そこで、もの忘れについて少し考えてみたいと思います。

認知症を疑う症状の具体例を挙げますと、

・物や人の名前が覚えられず、覚えている名前が出てこない
・お茶友だちなのに、「あの人は誰だろう?」(人物そのものを忘れてしまう)
・さっき食べたのに、「朝ごはんはまだかな?」(体験全体を忘れてしまう)
・数分前の記憶が残らない
・約束したこと自体を忘れている
・月や季節を間違えることがある
・同じことを何度も尋ねる
・話題が乏しく、限られている
・今までできていたことに、ミスや能率低下が目立つようになる
・以前はあった興味や関心が低下する
・置き忘れ、紛失が頻繁にある
・生活が乱れる。だらしなくなる

などです。体験したことの全体を忘れていて、体験自体の記憶(エピソード記憶)が失われているのです。そして、日常生活に支障が出ます。

加齢によるもの忘れは、
・物覚えが悪くなったように感じる
・朝食や夕食に何を食べたのか思い出せない
・知っている人だけど名前が出てこない
・約束をうっかり忘れてしまった(手帳に書いていなかった、手帳を見なかった)
・物の置き場所を思い出せないことがある
・曜日や日付を間違えることがある
・体験の一部を思い出せない(東京に行ったのは何年前だったか思い出せない。中学のときの修学旅行のルートを思い出せない)

などで、体験したことが部分的に思い出せないのであって、体験自体の記憶(エピソード記憶)は保たれているのです。日常生活に支障はありません。

[図1]認知症でみられる「もの忘れ」と加齢に伴う「もの忘れ」の違い