ところで、オイラがまだ小学生の頃、中学生の悪童たちが「イモリの黒焼き」を作るところに出くわした。

オス、メス2匹のイモリを腹合わせに抱き合わせ、その上から藁をぐるぐる巻き付ける。この時悪童たちはオス、メスの性器をていねいに合わせて、キャキャと騒いでいる。オスと思しきイモリのソレは、コメ粒ほどに固く、先が尻の穴のような格好だ。

二匹のイモリは迷惑そうにそれぞれ顔を背けている。メスと思しき割れ目からは白濁した粘液なんぞ出て、大変な騒ぎであった。

この後どのように黒焼きにしたのか、しなかったのか。それからどうなったか吾輩は知らぬ。したがって効能の報告もできぬのであるが、ごく最近、イモリの繁殖の生態がNHKのテレビで放映されて、一件落着したのである。

実は我らがメスだと信じていたのが、オスだったという話である。
あの紛らわしい割れ目は、何とオスの性器だったのである。

オスは繁殖の時期が来ると、あの割れ目の中に精子の詰まった精嚢(せいのう)を抱え、穏(おだ)やかな流れの上流から、すぐ後ろのメスにゆらゆらと流す、精嚢はやがてメスの腹の下に入ってあの尻の穴のような口にたどり着くのである。かくして受精は目出度く完了する。

なんのことはない、情熱的に交尾するイモリの姿はないのである。
過ちの元は、アノ思わせぶりなオスの性器(実は総排泄腔・注)に原因がある。

白濁した粘液は精嚢の素だった。
あれなら誰が見ても間違いを起こす。

古人はソレを見て、イモリの派手な交尾を連想したのである。
そしてイモリの黒焼きを考え付いたのだ。

(注、ほとんどの軟骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、ごく一部の哺乳類に見られる、直腸、排尿口、生殖口を兼ねる器官のこと)

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『お色気釣随筆 色は匂えど釣りぬるを』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。