受付カウンターは美術館のチケット売り場と見紛うような、上品で落ち着いた佇まいだった。宗像はパスポートを提示すると同時に、千エスクードを支払い、赤絨毯の階段を踏みしめてカジノに入った。

ギャンブル・ルームはカードとルーレットの二種類で構成されていたが、驚いたことに、ただ一人の客の姿も認めることはできなかった。

ガランとした空間の中で耳を澄ますと、静まり返る室内の一角からわずかに聞こえてくる音は、確かにトントントーンと何かがはねる音だ。

その方向に進んでみると、回転台の上を跳ね回る玉の行方を、真剣な眼差しで見つめる二人の客の姿が眼に入った。

どうも営業中のルーレットはこの一台だけらしい。

辺りを見回しながら更に奥へ進むと、所在なげにカードを並べているディーラーが数人いるだけである。宗像は真っ赤なベストを着込んだ若い女性ディーラーに声をかけた。

「静かですね。でもどうしてお客さんがいないのかな?」

「今日は少しおかしいわ。いつもはもっと賑わっているのよ。昨日なんかこの時間から大変な混雑だったのに。でもそろそろ皆さん現れる時刻よ。景気付けに遊んでいってね」

目の前のテーブルを指差し、ウィンクしながらこう話し掛けられたのだが、これでは誰も気乗りがしないだろう。カードルームの右手奥には、客がつかないカウンターを前にして、焦点の定まらない目つきをこちらに向けているバーテンダーが二人いるだけである。

華麗な夜の社交場を期待していたカジノは開店休業状態だった。しばらく歩き回ったが、これから客がどっと繰り出すという具合にも見えない。当てもなく歩き回る途中、ドリンク・サービスをするバー・カウンターに行き当たった。

ここは? 先ほど通り過ぎたところだと気が付き、やり過ごそうとすると、カウンターの右奥に小さな部屋があることに気が付いた。白いエナメル塗りの大きい両開き扉が、手前の一枚は壁に背を付けて開かれ、奥の一枚は直角に開かれている。

そしてその開口部からキラキラした反射光が廊下に漏れ出ていた。赤い絨毯の床は、そこだけ派手な柄になって浮かび上がり、人を誘い込もうとしているようだった。

※本記事は、2020年8月刊行の書籍『緋色を背景にする女の肖像』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。