「第一発見者のお三方です。こちらは、山田葉子さん。それから、矢沢トオルさんとタミ子さん。通称、おかあさんです。ヨーコさんは、元料理雑誌の編集長で、今はフリーの日本酒と食のジャーナリストです」
「日本酒と食のジャーナリスト?」

葉子が、微笑みながら、うなずく。

「毎日、飲んで、飲んで、食べて。たまに、書いてます」

瞳をキラキラと、輝かせた。言葉通りだとすると、かなりいい身分と言える。

「ヨーコさんは、週刊誌に酒蔵の連載を書いてるんです」

葉子は、小顔でパッチリした瞳。健康的な肌色で、黒髪をショートカットにしている。

「こちらの親子は、東京の居酒屋のご店主。たった二人で、五十席の店を切り盛りされてます」

横で、高橋警部補が目を丸くした。

「なんと。毎晩、五十人の客をたった二人で?」

老女将が、余裕の笑顔でうなずく。息子は、黙ってはにかんでいた。服装は仕事着なのだろう。

「それは、凄い」

唸っている。玲子には、五十人の客が入る居酒屋も、二人で店を回す凄さも、わからなかった。興味もない。

「兵庫県警の葛城警視だ。それと高橋警部補」

玲子は、自分と後ろに従っている部下を、指し示した。

「ここの第一発見者だそうだが?」

三人が、うなずく。

「秀造さんに、草取り体験をさせてもらいに来て、見つけました」
「なぜ? わざわざ草取りなんか。普通、頼まれたって、やらないだろう」

葉子が、重々しく首を左右に振った。

「そんなことありません。特級クラスの日本酒を造る米の田んぼですよ。草取りさせてもらうのは、凄い名誉なんです」

背筋を伸ばし、胸を張っている。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『山田錦の身代金』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。