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ファックスを読み終わると、さすがは磯原さんだと思った。心地は今や欧州を中心に活躍する国際人になっているから、日本と西洋との掛け橋になれる。それに専門は現代美術である。

時刻を確認するとちょうど正午を指していた。日本時間にすれば夜八時だった。いつも磯原が午前中しか事務所にいないことを知る宗像は、エストリルから電話を入れることにした。

チェック・アウトが予定より遅れたので、タクシーでパディントン駅まで行き、ヒースロー・エクスプレスに飛び乗った。これならわずか二十分で空港だ。ロンドンからリスボンまでのフライトは二時間半である。BA502便は午後二時五分の離陸だから、到着は四時半頃になる。

明け方まで飲み歩いていたせいだろうか、離陸するとフェラーラのことも、あのミステリアスな絵のことも忘れて深く寝込んでしまった。

どれほどの時間が経ったのだろうか、客室乗務員が耳元で何かを囁いている。思わず我に返ると、飛行機は既に機首を下げて降下態勢に入っていた。出発の遅れもあり、結局一時間遅れでリスボン国際空港に着陸することになった。通関手続きを済ませてタクシーに乗り込むと夕方の六時半だった。

リスボンからエストリルまでは約二十キロの距離である。七時にはホテルにチェックインできるはずだ。左側に広がる真っ青な大西洋を見遣りながら、宗像はいよいよエストリルに着くのだと胸が躍った。窓を開けると磯の香りが車内に充満し、海風が火照った頬に当たり、なかなか心地良い。

エストリルはリスボンの西に位置し、隣のカスカイスと並んで有名なリゾート都市である。毎年九月に開かれるF-1ポルトガル・グランプリで、注目を集める個性的な都市としても知られている。それにここには海外から多くの賓客をもてなす、最高級のホテル・プリメイロがあった。

実はこのホテルだが、数多くの有名美術品を所有していることでも、つとに知られていた。それに、立派な美術館が併設されているだけでなく、美術愛好家にとっては、レセプション、ロビー、ティーサロン、レストラン、バーなどのパブリック部分で、実物の芸術作品を目の当たりにできることが、人気の高い秘密だとも言われていた。

日本を出発する前になるが、ポルトガルに行くなら一度は泊まってみたらどうかと、心地に薦められて予約したいわく付きのホテルだった。

著名なリゾート都市だけに、さらにもう一つ、大きい呼び物が用意されていた。それはポルトガル最大のカジノの存在だ。宗像は昔からカジノに興味を持っていた。そこには、凝縮された人生の一こまのドラマがある。