こちらは麻で編んだ布を身にまとい、脛に革らしいものを巻いている。黒々とした長髪を後ろで一つにくくっている。遠目で判然としないが、しかめっ面をしているようだ。手には畳んだ麻布を重ねて持っている。

彼女は子どもたちに向かい、何やら強めに言った。衣類をつけない子どもたちに苛立っているようである。だが子どもたちは言うことを聞かず、むしろ女の子をからかうように、その周りをはしゃぎ回った。

探検隊は離れたところにあじさいのように頭を並べ、その様子を眺めていた。みな、息を殺している。砂川がこれ以上押し殺せないほどかすれた声で

「行ってみようぜ」

林は面喰った。行くったって、心の準備できていない。ためらっていると盛江が一つうなずき、藪から一歩踏み出した。林は彼の横顔を見た。瞳が勇気凛々と輝いている。「行くなら堂々と正面から行く」――そんな目だった。

この目の輝きを、林は前にも見たことがあった。林は盛江と何度となく「合コン」に参加したことがある。盛江はいつも大きな声と大袈裟な笑顔で女性に近づき、親しげに話しかけ、ためらう女子を一気に懐柔する。その時の目の輝きだ。

自信無さそうにしていては、不審がられたり、素地を見透かされたりして失敗する。第一印象はハッタリでも「堂々」が肝心――盛江は度重なる合コンを経て、ついには自らの意志で目を輝かせるという特殊な技芸を編み出したのである(ちなみに盛江も林も合コンで誰かと付き合うまで至ったことは無い)。

盛江の後に、砂川が続き、岸谷が続き、林も歩きだした。あとを中学生たちが従う。

「ハロー」

盛江は両手をやじろべえのように開き、頭を左右にリズミカルに振って、陽気な様子で子どもたちに近づいていった。

後の連中は顔を強張らせた。砂川は岸谷に顔を近寄せ
「岸谷、お前もやれよ」
「みんなでやったら不気味でかえって怖がられないか?」
「おい、林が踊りはじめたぞ。俺たちも躍るっきゃない」

グングン近づいてくる得体のしれない一行。縄文の女子と子どもたちはギョッとした。だが、盛江がひょうきんなステップを踏み、中学生たちがそれに合わせて腰をくねくねさせると、裸の子たちもつられて踊り出した。女子もにっこりほほ笑んだ。

――上手くいった!

林の背中は汗でびっしょりだ。

※本記事は、2020年7月刊行の書籍『異世界縄文タイムトラベル』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。