挨拶もせず何も喋りません。初診時には母親とではなく、祖母と叔母の3人で来院しました。母子家庭で父親はいません。叔母が普段からかかっている医師に、ここを紹介されたということでした。

朝も起きられず、不登校が続き部屋に引きこもりがちということが心配だと言います。たまたまDさんの叔母が通っている病院のかかりつけの医師と私は、市の医師会で同じ委員会に所属し顔見知りだったのです。

母親は日頃から学校での生活をうるさく注意するようで、Dさんの話を聞いたところによると、性格が合わないと彼女は感じているようでした。祖母と叔母に尋ねたところ、小学生の時に心ない女子によって友人の女子を引き離されたり、男子に陰口を言われたりといったいじめにあって、転校したりしたこともありました。

中学2年生になった今もからかわれることが多く、保健室に避難しているそうです。その方が楽だということです。

Dさんの話を聞いていくと、道順をよく記憶していたり、音に対して敏感だったり、嫌なことには取り組まなかったり、興味の範囲が狭かったり、家族が自分のことをいろいろ話しているのではないかと常に気にしてしまったりと、自閉スペクトラム症の症状と思われるものがいくつか見つかりました。

挨拶もせず、一切喋らない場面緘(かん)黙という症状も自閉スペクトラム症に多く見られる併存障がいの一つです。外来で行った自律神経失調症のテストは陽性でした。過去のいじめの経過も合わせて考えると軽いうつ病も併存しているように思えます。

まとめると、軽いうつ病、場面緘黙、IQは普通であり、高機能自閉スペクトラム症を伴った自律神経失調症による不登校という診断結果が出ました。

※本記事は、2018年10月刊行の書籍『新訂版 発達障がいに困っている人びと』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。