東京都立広尾病院事件で、東京地裁は、死亡確認時点を、医師法第21条の24時間の起点である「異状の認識時点」としたが、控訴審の東京高裁は、一審判決を破棄、あらためて、病理解剖時点を、「異状の認識時点」と修正したことは、前掲したとおりである。

院長側は、当事者に警察への届出義務を課すことは、憲法第38条1項の自己負罪拒否特権侵害であるとして上告したが、棄却されて、2004年(平成16年)4月、刑が確定した。

判決理由の該当部分を記すと、検案については、「医師法第21条にいう死体の『検案』とは、医師が死因等を判定するために死体の外表を検査することをいい、当該死体が自己の診療していた患者のものであるか否かを問わない」としている。

また、違憲問題については、

「(医師法第21条の)届出義務は、警察官が犯罪捜査の端緒を得ることを容易にするほか、場合によっては、警察官が緊急に被害の拡大防止措置を講ずるなどして社会防衛を図ることを可能にするという役割をも担った行政手続上の義務と解される」

「(医師法第21条の)届出義務は、医師が、死体を検案して死因等に異状があると認めたときは、そのことを警察に届け出るものであって、これにより、届出人と死体とのかかわり等、犯罪行為を構成する事項の供述までも強制されるものではない」

とし、医師法第21条は違憲ではないとした。

※本記事は、2018年12月刊行の書籍『未来の医師を救う医療事故調査制度とは何か』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。