第一章 ある教授の死

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一週間後、沙也香とまゆみは高槻教授の自宅を訪れた。インターホンを押すと、教授夫人の恵美子がにこにこ笑いながら出てきた。いまかいまかと、二人が到着するのを待ち構えていたのかもしれない。

「遠いところをよくいらっしゃいました。どうぞどうぞ、お上がりになってください。汚いところで恐縮ですが」
「では遠慮なくお邪魔させていただきます」

二人は軽く会釈して玄関に入った。夫人は先に立って案内し、来客をリビングに通した。リビングの中央には応接テーブルがあり、それを囲むようにロングソファーが一脚と一人掛けの応接椅子が三脚セットされている。

そのうちの二脚の応接椅子には見知らぬ男性が二人、すでに腰掛けていた。沙也香とまゆみが部屋に入ってくると、二人は立ち上がり、会釈した。沙也香たちも反射的に頭を下げる。夫人が急いで二人を紹介した。

「ご紹介しておきます。こちらが」といって、恵美子は五十代くらいの男性に手のひらを向けた。「H大学の山科(やましな)教授です。主人とは懇意にしていただいておりました」

「山科と申します。どうぞよろしゅう」

青のストライプの入ったしゃれたジャケットを着た紳士然とした男性は、関西なまりの言葉で応え、軽く会釈した。続いて夫人は隣の椅子に座った三十代くらいの男性を指し、

「こちらはW大学の磯部(いそべ)准教授です」と紹介した。

「磯部と申します。よろしくお願いします」
磯部の言葉はなまりのない標準語だった。

「あの、W大というと、東京のW大ですか」
沙也香は不思議に思って確認した。

「そうです。磯部さんは、東京のW大の准教授です」恵美子が応えた。「今回主人が出張講義をしていた大学です。このたび、主人の研究資料を整理するのをお手伝いしていただいているんですよ」

「ああ、そうだったんですか。それはご苦労さまです」沙也香は少し感心して頭を下げた。今回の事故に対してのボランティア活動というべきかもしれない。

「いいえ、そんなにたいしたことじゃありません。生前は、高槻教授には大変お世話になりましたから、これくらいのことは当然です」

磯部は照れたような口調でいった。すると恵美子が補足するように付け加えた。