しかし、ハツカネズミの場合、ハーレムの主は子を守ろうとはしていない。たまたま相部屋になった雄の子に当たり散らしてばかりいたのか、雄の子は強いストレスで死にそうになっていた。

雌をはらませることができるのはこの雄だけなのだから、目の前にいるのは実の子ではないか。隻眼の雄は単に恐れられる存在でしかない。

人間社会のハーレムの主と同様、ハーレムの主であるボスは大勢の子と共同生活をするのではなく、子の世話は雌に任せて、縄張りのチェックとマーキングに忙しいと考えた方が良いということか。しかし相手は雄であっても子供。いじめてどうするのかと思った(図2)。

[図2]鶏舎前期雌の頭胴長と体重の関係を表している。○は胎盤痕が有り、◎は胎児を持った個体を表している。妊娠経験のある雌は合計7頭いた。●は妊娠経験のない雌を表している。丸で囲った6.5g以下の3個体は離乳前の個体である可能性が高い

本当にハーレムなのか、確認のために雌についても調べてみた。妊娠経験のある雌が7頭もいる。まさしくハーレム、羨ましくなるほどのハーレムだ。一般的に6.5g以下の個体は離乳前という情報を得たので、グラフに書き入れてみた。

離乳後の個体が多く捕まるのは当然だが、離乳前の雌個体が揃って捕まっているのはこの中の丸で囲った3頭だけだ。パン目当てに捕獲具に入るのだろうか。違和感を覚える(後にこの3頭について何度も触れることになる)。

6月1日。雄2頭と雌1頭を捕獲した。それまで3~4日毎に点検を行って、間をおかずにその都度捕獲できたのだが、この日以降しばらく捕獲できない日が続いた。

6月12日。♀2頭、19.0g(乳頭がはっきりと認められたので授乳中)、14.0g。

6月15日。♀4頭、17.6g妊娠中、4.7、4.4、3.6g(6.5g以下なので、3頭とも離乳前の幼個体)。

6月17日。♀2頭(9.1、8.1g)。7月3日。10.0gの♀と8.7gの♂。

続く…

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『捕獲具開発と驚くべきネズミの習性』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。