然し一方、コストダウンを追求するあまり商品価値を損なったら本末転倒で、大変気になる点でもありました。商品企画の責任者である技術部長が統括リーダーを勤め、技術部がメンバーの中心を構成するので極端な事はないと思われたものの気がかりな点でした。

そこで私はデザイン部をチームのメンバーに入れる事にしました。チームリーダーに対しては大きなコストダウン目標をノルマとする一方、デザイン部に対しては「商品価値を高める為には決して妥協するな。デザイン部は商品価値を高める為に消費者の立場に立って敢えて投資も辞さない覚悟で参加せよ」と指示をしたのです。

コストの削減を図りつつ、一方では商品価値を高める為に、時には激しい議論が戦わされる事を期待したのです。そしてこの意図は成功しました。デザイン部のメンバーは僅か1名ではありましたが、良くその役割を果たしてくれました。結局、活動期間中2回にわたって、統括リーダーの技術部長とデザイン部長が二人で私の決裁を求めてやってきたのです。

技術部長は「これをやれば目標は達成できる。然し…」と苦渋の胸の内を打ち明けました。私は技術部長に最大の配慮を示しつつも、2回ともコストはかかるけれども商品価値の高いデザイン部の案を採用しました。

第2は、製造部の抵抗でした。肝心の「実行チーム」に製造部が参加していません。それはかねて技術部が製造部の意見を聞いてくれないという製造部の不満に基づくものでした。

然し、このような壁はプロジェクトチームがスタートし、更に時間の不足を補うために2度に亘る合宿を行うなどする中で、見事に解消し全員参加の体制をつくることができました。その活動を通じて、リーダーは事業部全体の利益に目覚め大きく成長し、また各参加者も多くの教訓を得て活動を終了しました。

[図] 材料費削減チェックリスト

注:クロス・ファンクショナル・チーム(C・F・T)
組織横断チームの意味。縦割り分業組織の弊害を除去して生産性を上げようとする組織。関係部門が活動の始めから参画することにより、関係部門の知恵を計画段階で結集して、後工程での修正逆戻りのムダを削減できるなど高い生産性が期待できる。
後に日産自動車で採用され、会社再建の中心的役割を果たすと同時に、社内にC・F・T活動を広め、改革とあわせて人材育成の効果があったことでも有名。
商品計画にも営業をはじめ製造各部門の代表から構成するC・F・T活動が採用されている。

教訓

1、コストダウンの真の目的は、「売上高原価率」を下げること
2、商品価値(価値/コスト)を高めることが肝要
3、C・F・Tが人を育てる

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『生産性向上はこうする』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。