「私達の時には話もしてくれないのに」
「私達の時には抵抗するのにどうして先生の時には話をしてくれるのか」

といつも不思議がられます。でも私には何となくわかっていました。

まず私はスタッフと異なり時間に追われていません。だからゆっくりと患者さんに話しかけることができます。声のトーンの問題もあるでしょう。また私は看護や介護のスタッフと異なり直接ケアすることはありません。言い換えれば患者さんにとって嫌なことはしない。だから受け入れられやすいこともあるのでしょう。

もう一つ私は「認知症の方である」という先入観は決して持ちません。どんな方に対しても一人の患者さんとして接しています。

さてユマニチュードでは「立たせる」ことも基本としています。歩けた方が入院したり施設に入所すると車椅子生活になってしまう。この点は私も疑問を感じていました。しかし「日常のケアを行う時にも立って頂く」。ここまでは考えが及びませんでした。

「麻痺して寝たきりになっている方を立たせるなんて」。
ユマニチュードの話を聞いたスタッフの中からそんなブーイングが聞こえて来ました。

そうではないのです。麻痺して動けない方あるいは意識がなく寝たきりの方まで立たせよということではありません。転倒して骨折するかもしれないなどの考えから立たせないのはいかがなものか。「本来持っている機能を自分達の勝手で損ねてはいけない」ということなのでしょう。

様々な賛否両論のある中「うちの病棟でも取り組んでみたいです」と当院療養病棟のスタッフが言って来ました。ユマニチュードは「人間らしく」という意味を持っています。認知症の方に対しても人間らしい介護を行いたい。このように前向きな発言が出て来ることはうれしいことです。

20万円近くもしてとても手が出せなかったユマニチュードの実践DVDがようやく手に入りました。これからが楽しみです。

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『新・健康夜咄』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。