「それに対し……」と、高瀬医師は続けた。

「脳腫瘍の長径は六センチほどに増大し、その周辺に浮腫(むくみ)も出てきており、脳梁体側部への広がりも認められます。但し、脳動脈の閉塞は見られません。今後起こりうる病態としては、広範囲脳梗塞や腫瘍からの出血などが懸念され、それが一旦起きれば、急激な意識障害・呼吸および心停止につながる恐れもあります。ですから、向後のリハビリ実施や息子さんがやるマッサージについては、特に細心の注意が要されますので気をつけてください」

言語・運動能力の衰えや食欲減退も、つまりは脳腫瘍の肥大によるもの。諸事、先が思いやられる……。

[図2]脳腫瘍のスキャン画像

部屋に戻ると、看護主任の中岡さんが来ていた。

「婦長さん、婦長さん……、う、う、う、う……」

彼女が婦長(師長)ではなく主任であるのを知っているはずなのに、母は勘違いしてしきりにそう呼ぶ。

「どうしました、何か話したい事があるんですか……」
「あるの、山ほどあるのよ。話したいの……」

けれども、結局は何も言えずに顔を歪め唾と一緒に声を飲む。

山ほどの 胸につかえし
言の葉を
探しあぐねて ついぞ拾えず