決断の二点目はロッド・モーローの首を切ることだ。

ブリット銀行から会社に戻ると、早速ロッドを社長室へ呼んだ。
ロッドへの追及の手は取締役会決議違反の一点に絞った。

ケニー・ブライアント前社長がブリット銀行に約束した、マドールタイヤへの共同出資や、製品全数買い取りへのロッドのかかわりも問題にしたかったが、どうせしらをきられるだけ、と考えたからだ。

「マドールタイヤに原材料を供給し続け、不良債権を増加させたことは問題にしなければならない。記録を見ると、ケニーが退社した後の原材料供給の承認サインは、ロッド、あなたになっている」

この言葉に、ロッドの顔がみるみる赤く染まった。

「先日の役員会でも言ったが、マキシマ社が原材料供給を停止すれば、マドールタイヤはタイヤを生産できないので倒産する。そうなれば永久に代金回収はできない。それに供給を承認したのは自分ではなく前社長だ。彼がいなくなって社長が空席だったので自分がサインせざるを得なかった」

「マドールタイヤが倒産するかどうかの問題ではない。あなたもメンバーの一人である取締役会で『原材料供給を停止する』と決議したのを無視したことが問題なのだ」

追及する高倉に、ロッドの金髪が逆立って来た。
「私は反対したが多数決にやられた。間違った取締役会決議でも守らねばならないのか、ジョージ」

「そうだ、決議は絶対だ。取締役会決議自体が間違っていると思ったなら、臨時取締役会を招集して、再度議論しなければならなかった。そうでなければ株主や従業員に対する背信だ。前社長が推進したことを部下であるあなたが阻止出来なかったのは理解できる。しかし、前社長がいなくなった後もあなたが承認サインをしているという事実は、あなた自身も推進者であったと見ざるを得ない」

「ジョージ、あなたは日本人だからこの国のビジネスのことはわからない。さっきブリット銀行のピーター・コナーが言ったように、彼らはマドールタイヤを救済しようとしている。彼らが投資すればマドールタイヤは蘇るし、売掛金も回収できる。その上に品質の良いマドール製品を我々は独占して販売できる。こんないいことはない。今はだまってついていけばいいんだ。しかしあなたはブリット銀行との関係をぶち壊してしまった」

ロッドは金髪を手で整えたが、顔は赤鬼のようになっていた。

「ロッド、あなたは問題点をすり替えている。取締役が取締役会決議を無視して会社に莫大な損失を与えた罪は大きい。別途懲罰を検討する」

「ファック・ユー・イエロー・ジャップ(くそ野郎、黄色いジャップめ)」

赤鬼は言ってはならない言葉を発した。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『アパルトヘイトの残滓』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。