言っとくけど、ヌードじゃねぇから安心してな。もっとも、婆さんのヌードじゃ、おらの方でもお断りだがな、ハハハ……」

母の遺影を描いて欲しい……と、事前に私が頼んでおいた事を、画伯は何くわぬふうにサラリと口にした。

 

三月二十二日(火)晴

一時の暖かな日和から一変して、近ごろは少し寒い日がつづいており、桜前線も遅れているようだ。仕方なく、月末のつもりでいた祖母の墓参を一週間先に延ばす事にした。

天気の都合もあるが、もうこれ以上は延ばせない。母の体力の問題があるからだ。

それで、四月二日に決定することにして、母にその旨を伝えた。ふと、「お母さん、今、幸せだよ……」と、母はいつになく流暢な言葉で言った。

ついこの間、「お墓まいりも花見も行きたくない!」と、ヒステリックに駄々をこねていた母が嘘のようだ。しかし、今日の母が本当なのだと思う。

身体も言葉も思うようにはならないけれど、それでも、痛いも苦しいもなく、子供や親しい者たちの善意と誠意に浴していられるのだから。時には夢にトリップして独りの世界へ迷いこむは否めぬけれど、こうして、どうか常の気持ちだけは穏やかでありつづけて欲しいと願う。

※本記事は、2020年7月刊行の書籍『ありがとうをもう一度』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。