狭い小型トラックの助手席に座って、ミニスカートから飛び出している太い脛が、空の太陽よりも眩しかった。

焦った、車の帰りを待っている仕事人がいるのだ、時間がない。彼女を乗せて国道五三号を横断して、山麓に広がる緑一色のススキの中へ分け入った。

後で知ったが、そこは海抜一、二五五メートルの那岐山の麓、裾野に広がる広大なススキの原野で、日本原と呼ばれる自衛隊の演習場だった。

そのことも知らず、遠くにブルドーザーのような音を聞きながら、ススキの中の小道をむやみに走った。

車を止めた、無言である。何と言っていいか分からない。

オイラは乙女心を知らなかったのだ。彼女の心を踏みにじったのかもしれない。

彼女の肩を抱いて「ごめん」……と言った刹那(せつな)、

「ヴアーングルグル、ガラガラガラ」

地響きと共に、ディーゼルエンジンのけたたましい音、辺りには濃い燃料ガスの臭い! 続いてキャタピラの強烈な軋(きし)む音!

突然正面のススキから戦車の砲身がズボーと突き出て来た。
直ぐ右側からも続き、気が付くと車の天井の上にも砲身が揺れていた。

なんと! 戦車三台に取り囲まれていたのだ。

ハッチが開き、鉄兜の自衛官が顔を出す。
スピーカーから大声が響く、

「立ち入り禁止区域です、直ちに演習場から退避しなさい」

*   *   *

ああ、何んてこと‼ いいところだったのに。
全く間が悪いよ、オイラは昔からドジばかり踏んでいる。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『お色気釣随筆 色は匂えど釣りぬるを』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。