第九章 十年ぶりの恋

私は、最高の結婚式を挙げたという事実を創り上げたいだけだった。式自体を心から楽しむことはできなかったし、大枚を叩いて作ったアルバムも、ただの一度も見ていない。

少ない小遣いに文句ばかりの旦那。一緒にスーパーに買い物に行けば、小遣いから払わなくて良いとあって金に糸目をつけず次々とカゴに商品を入れていく。

「そのお菓子! 高いから買うのやめて!」

結婚式費用で数百万も浪費しておいて、普段の生活で数百円のお菓子を買う買わないで揉める自分達がひどく滑稽に思えた。一生愛すると誓いを立てるための儀式が、家計を圧迫し夫婦仲を険悪にさせるとは、本末転倒もいいところである。しかしその事実に、私は式が終わるまで気が付けなかった。一生に一度の、高い勉強代だったと自分を納得させるしかないのだ。

純白のベールが床を這っていく。二人は心から式を楽しんでいるのだろうか。私は心からこの二人を祝福することができなかった。

帰りの車の中、ショウ君からメールがあった。

〈昨日はありがとうね。あのさ、今度普通にご飯行かない? デートってこと! お洒落で美味しいお店知ってるからさ。いつが空いてるかな?〉

私は分かりやすく顔をほころばせた。思わず溜め息が漏れる。そんな私の様子に旦那がチラリとこちらを見た。

「いや、良い式だったよね。料理は微妙だったけどさ」

旦那は何も返さなかった。

私の頭の中には『デート』の一言が何度も駆け巡っていた。

独身時代、生き甲斐にしていたデートも、今や惰性でしかなかった。一緒に暮らせば、心踊るような待ち合わせの高揚感も、後ろ髪を引かれるような別れの寂しさも、もう味わうことができない。ただの外食すら、金が掛かると険悪になった。デートの醍醐味とも言えるそれらを無くしてしまっては、もはや二人で出掛けたとしてもデートとは呼べない。私は久しぶりにデートに誘われた気がして胸が高鳴った。

何を着て行こう。どんな髪型にしよう。メークは、靴はどうしよう。デートという一大イベントに向けて、私は考えを巡らせた。