第2章 変遷する発達障害

精神障害としての発達障害

このような経緯からも、はじめは精神科医や小児科医が自閉症の存在に気づき、根本的な治療は難しいかもしれないが、何らかの治療によって改善を目指すというスタンスでした。疾病概念や障害概念がそれほど明確ではなかったとも言えますが、大きくは精神疾患として治療対象と考えられました。

精神医学の治療対象は基本的に精神病です。かつては精神分裂病(統合失調症)、躁うつ病(双極性障害)、てんかんは、三大精神病と呼ばれていましたが、いまも基本的なとらえ方としては生きています。

ほかには20世紀にフロイトが発見した神経症、人格異常など、あくまで病気として考えていました。そして精神障害者福祉を考える時には、治療後に残った外的世界とのずれともいうべき症状、生活障害への支援が目指されました。

状況が変わってくるのは、1952年アメリカ精神医学会から出された『精神疾患の診断・統計マニュアル』、DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)の登場です。はじめは統計、調査が目的でしたが、診断のマニュアルとしての性格を強めていきます。

診断をマニュアル化するとどうしても操作的な概念になり、治療者が患者との診察を通して判断する病的な世界ではなくなり、表出される不都合や状態の評価に傾きます。