夜空に一本の白く輝く天の川がたなびいている。まるで白い帯が吹き流されているかのように、天の川は明るく輝き、濃紺の夜空を二分している。

「雲がちょうどコール・サックのように見える」
父親はそうつぶやくと、幸子に問いかけた。

「天の川に、星の光がない黒いところがあるのがわかるかな?」

父親は天の川の中にある、丸く黒い部分を指差した。
幸子は父親が指で差す先を見つめ、やがて、天の川の中に、星の光がない黒い影を見つけてうなずいた。

「うん。あそこ、星が光ってない」

二人は天の川の一部に、雲が黒い影になって、星の光をさえぎっている部分を見つめた。父親は天の川を見上げたまま、幸子の頭をなでながら言った。

「丸い雲がかかって、星が見えないところは、まるで『コール・サック』のようだ」

「コール・サック?」
幸子は聞きなれない言葉をつぶやいた。

「そう。『石炭の袋』という意味だよ。まるで天の川に石炭の袋を浮かべたように見えるからそう呼ばれているんだ。本物の『コール・サック』は南の国でしか見えない。インドでもチェンナイやベンガルールのような南の街でないと見ることができないんだ。南十字星のそばにあるからね。暗黒星雲が星の光を遮っているのだよ」

幸子はもう一度、聞きなれない言葉をつぶやいた。
「……あんこく……せいうん?」

暗い言葉の響きに、幸子の不安な気持ちがもう一度膨らんだ。

「そう。宇宙のチリやガスが集まった雲で、暗く、黒い星の雲という字を書くのだよ」

幸子は天の川の中に浮かぶ、黒い影の部分を見ながら父親の話を聞いていた。

「本当のコール・サックは、どんなに大きな望遠鏡で見ても星が見えないんだ。もしかしたら、木星のような大きな星が隠れているかもしれないが、光を通さないからわからない。そこから、西洋では、『石炭の袋』は大切なものを隠す最高の場所だと言われているんだ」

父親は幸子の手を握って微笑んだ。
「お父さんは、昔、上海で、アメリカの兵隊さんを『石炭の袋』に隠して、海軍の兵舎の中にかくまったことがあるのだよ」

幸子は驚いて父親を見た。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『コール・サック ―石炭の袋―』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。