その九 家族それぞれの出発

② 高温火傷と低温火傷

その後も必死にミーティングに参加し、T医師やケースワーカーとの出会いがありました。ソーシャルワーカーの方々とミーティングや相談も重ねておりました。

ソーシャルワーカーは元アルコール依存症者です。その方は、アルコール依存症に病む姿を火傷にたとえて、「飲む当人たちは高温火傷を負い、周りで翻弄される妻たちは低温火傷で、身も心も芯の中までジックリ痛めていてね、こっちの方が重傷ですよ」と、教えてくれました。

また家も探せないでウロウロしている私に「家ぐらい自分で探せないでどうするんだ!」と叱咤激励してくださり、勇気を与えてくれたのです。

③ 火事場の馬鹿力

思いきって職場のすぐ傍の小さな不動産会社へ足を運びました。私の収支を考えて借りられる額の部屋は、一間でトイレも洗面所も共同で、お風呂は勿論ありませんでした。もう少し条件のよいものを選ぶと手が出ません。

ふと、チラシに目がいきました。月々四万円弱でワンルームマンションが買えると書いてあります。「これはどういうことですか!」と聞くと、「売れ残った一部屋で半地下の未入居の物件です。マンションの仕様は、ベッド据え付け、冷暖房エアコン付き、ユニットバス・トイレ、小さな冷蔵庫付きの学生向きのものです」と説明してくれました。

私は、今日からでも住みたいのです。身一つで何の家財道具も布団もないのですから、そのマンションならばエアコンもあり、何とかすぐにでも生活できます。私には願ってもない物件でした。

でも、頭金もありませんし、年齢的にローンを組めません。いろいろ私の事情を話さなければなりませんでしたが、ぶっちゃけて話しました。