深夜に田舎路で鹿の姿を見たし、渡船屋の近くでゴミをあさるイノシシに驚いたこともある。

真昼に高速道路を横切るイノシシの行列にも遭遇した。
母イノシシに続いて縞模様のウリ坊数匹が、行列になって有料の宇和島道路を横断していた。

微笑(ほほえ)ましくて可愛いけれど、一昔前なら考えられない光景だ。

岡山市の郊外で、田んぼの辺(ほとり)を走っていて、ヘッドライトの前に突然大イノシシが飛び出たことがある。慌ててブレーキを踏み、難を逃れたが、真冬二月、寒夜八時頃のことだった。

兵庫県の西の端を流れる千種川に毎年アユの友釣りに出かける釣友が、
「行けば必ず鹿を見る」と言う。

あの辺りは特に鹿の生息が多く、農家の被害も甚大だ。
川辺には瑞々しい草があり、しかも藪が多く身を隠しやすい。
車に轢かれる心配がない、川を渡って逃げれば人間も怖くない。
これらの事情が鹿たちを千種川に集めているのだ。

イノシシに限らず鹿も猿もタヌキも年々増え続けているのに、人間社会の方は過疎(かそ)が進み、住んでいる人たちも年々歳をとり活動力が鈍る。

そんな訳で、昔里山と呼ばれ人々に親しまれた地域が、だんだん動物たちに取り戻されつつある。後一〇年も経てば一体どのように変わるのだろう。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『お色気釣随筆 色は匂えど釣りぬるを』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。