4

「ところで画集は全てロイド財団で発行されているようですね?」

「ロイド・ギャラリー、ロイド・オークション機構、ロイド・アカデミー、ロイド出版などを所有する、ロンドン最大の画商エドワード・ヴォーン氏の所有する会社と組織です。フェラーラはよほどヴォーン氏が肩入れしていた画家のようです。それに巻頭文を載せたミッシェル・アンドレ氏も、実はロイド・ファミリーの一人とみなされています。それでヴォーン氏がアンドレ氏に解説文を依頼したのではないかと、先ほど資料部の部長に言われましたの」

「フェラーラの絵がそれほどの大物達を動かしたということでしょうか?」
「そうですね、その点はもう少し調べませんと」

「おかげさまでいろいろ分かりましたし、ヒントになりそうなことも伺うことができました。お忙しいところ本当にありがとうございました。今後、これをご縁にまたお訪ねしてもよろしいでしょうか? 私、明日から数日ほどポルトガルに参りますが、その後またロンドンに立ち寄るつもりです。その折にでも改めてお会いできましたらと存じます」

「お役に立ちましたかどうか? 私でよろしければいつでもご連絡ください。できる限りのご協力をさせていただきます。何か新しい事実でも分かりましたらご連絡させていただきます。何しろ心地先生にはいつも何かとご指導・ご協力をいただいておりますので」

心地のやつ、いつのまにかロンドンの美術界において一目置かれる存在になっているのだなと、宗像は頼もしくも嬉しく思った。

ナショナル・ギャラリーを辞し、外に出ると夕方四時半を回っていた。セント・マーチンズ・ストリートをレスター・スクエアの方に歩きながら、約束した時間までたっぷり三時間はあると計算したとき、今晩のレストランの名前をホテルのフロントに連絡しておくと言った心地の言葉を思い出した。

フロントに電話して名前と室番号を告げると、ジェラード・ストリートに面する《金龍》という名の中華レストランが、住所と電話番号と共に告げられた。

アドミラルティ・アーチへ歩みを進めると、左手にトラファルガー広場が見えていた。広場では幾つかの路上パフォーマンスが行なわれて、それを取り囲むように大勢の観光客が集まっていた。広場中央に据えられたネルソン提督の銅像の基壇部に、そこまで攀じ登ったのか一組の若いカップルが並んで座り、頬を寄せ合いながら話に熱中している。

アーチをくぐり、ザ・マルを二百メートルほど進むと、右側にカールトン・ハウス・テラスが見えてきた。この施設の右翼の一角を利用して開かれているICAギャラリーに、小さいカフェがあったことを思い出して、モーニントン女史より提示された資料や書き写したメモ類を、そこで整理することにした。