真の顧客ニーズ表面化したニーズとは異なるということです。肝臓病の専門外来と明示しているのに、腰痛の話を始める患者にしばしば出くわしますが、患者の真のニーズは腰痛を治して欲しいわけではなく、担当医とコミュニケーションがとりたいだけであったりします。

腰痛の話はこの外来では関係ないと言って話をさえぎり整形外科に紹介するのではなく、実は患者さんの話に傾聴、共感するだけでいいのです。内服や湿布を処方する必要もありません。

このように真の顧客ニーズを洞察することがCSに繫がるわけです。帰宅後に奥様が解決しようのない話題を話しかけてこられたとしてもそれは解決策を求めているのではないので、「どうしようもないじゃないか」と突っぱねるのではなく、傾聴し共感する、すなわち反論せずに黙って頷いていればそれでいいのです。

最近は患者満足度調査を行う病院が増えています。ただし、医療においては患者のための健康を考えると、患者自身にとって耳の痛い話(食べ過ぎないように指導することや運動療法を指示すること)をしたり苦痛を伴う検査を勧めなければならず、CSの追求に限界が生じることもあります。

また個人の顧客満足の追求に公共的資源をどこまで費やすのかといった視点もあり、医療におけるCSには課題が山積しています。投書箱を設置して顧客のクレームを拾い上げようとする病院があります。

投書箱がそもそもCSの実態を反映しているか?という疑問を持つべきです。むしろ不満足な患者は投書をすることもなく、無言でその病院から去るものです。

Silent customer is silent gone”と言います。さらに投書箱は一部の先鋭化した意見を投じているのみですので、顧客の声を聴いても医師にフィードバックしたり、病院に掲示したらかえって逆効果です。

クレームを掲示するのはその対応を回答することで、「患者の声を聴いています」といった表面上のアピールにすぎませんし、そもそも玄関にわざわざ書面で「当院はだめな病院です」と自ら宣言しているようなものです。ただしマーケティングリサーチとしてCSのデータを取ることは良いと思いますし、どんな問題点や課題が病院内に潜在しているかが明らかになります。

決して個人を責めたり反省を促したりすることに用いてはなりません。クレームの多くは、病院のシステム不全であることが多く、個人の責任の追及ではなく、そのクレーム内容を病院の組織改善に用いるべきです。むしろ、「いいね!」のみの投書箱を作り、良かったことだけをフィードバックすれば、職員のやる気も湧きます。

近年の日本は些細なことでマスコミに取り上げられたり、ネットでの誹謗中傷を受けたりするなど、社会全体が批判を怖れ、それを避けるようにどんどん萎縮に向かっています。2016年NHKスペシャルでも特集されましたが、現代は他人の過ちや欠点を許さない「不寛容社会」になっています。そして許されなかった人がまた他人に対して不寛容になる「不寛容の連鎖」に陥っています。

病院でクレームを言う人は、自身もクレームを受けるサービス業に居てその仕返しをしているというような場合も見受けられます。

以上のように、「お客様は神様です」のごとくCSの追求のみでは、病院経営はどうも限界があるようです。

本書でも読者の皆様のご批判は大歓迎で、ぜひ改善すべき点をご教授頂ければと思いますが、クレームに対する回答は一切行いませんので、御了承下さい。

※本記事は、2017年12月刊行の書籍『MBA的医療経営』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。