第Ⅰ部 医療経営戦略

第2章 医療におけるマーケティング戦略

本章のポイント

・マーケティングとは顧客ニーズを捉えて、顧客との関係性を構築・維持し、売れる仕組みを作ることです。
・医療情報の非対称性の解消、医療のコモディティ化、顧客ニーズの多様化など医療においてマーケティング戦略が重要になっています。
・今後の医療マーケティングには顧客満足の追求のみでなく、社会公共性志向、自己実現志向が求められます。

顧客満足度とは?

顧客満足度(Customer Satisfaction:CSとは、顧客が求める商品・サービスを顧客側から評価する場合の満足状態、あるいはその度合いを言います。顧客の事前期待に対する充足の度合いのことです。

以前私が、TDLで慌ててジュースをこぼした際の出来事ですが、キャストが近寄ってきて速やかにこぼれたジュースを拭き取ってくれました。ありがたいことでしたが、こぼした場所はパレードの行われるメインストリートなので、パレードの障害にならないように掃除してくれたとも理解できましたので、ここまでは事前期待の範囲内でした。

しかし、スタッフはポケットからジュースの無料券を5枚取り出し、「もう一度これで買って飲んでくださいね」と言うのです。掃除してくれるところまでは顧客にとっての事前期待に含まれますが、自身の過失でこぼしたジュースの補償までしてくれたのです。事前期待をはるかに超えた対応がCSを生みだすのです。

リチャード・オリバー(Richard L.Oliver)が提唱した期待不確認モデル(expectation-disconfirmation model)では、顧客満足は顧客が感じた価値が期待値を上回った場合に生まれ、感じた価値と期待値の差が大きいほど、CSは大きくなるようです。

すなわち、CS=(顧客が感じた価値)−(顧客の事前期待)と表せます。さらにキャストの一人ひとりが顧客価値を提供していることを自覚し、同時に顧客満足を生み出すための権限が与えられています(※注)。

これがまさに、のちに述べますインタラクティブマーケティングです。医療の世界でこれを真似ることは困難ですが、青梅慶友病院会長の大塚宣夫先生は、「自分の親を安心して預けられる施設」の実現を目指し、医療界ではCSを重視した先駆的存在です。病棟の看護師長に100万円で自由にCSを得られる環境を作って欲しいと、現場に権限を委譲することでCSを達成したことは有名です。

あるホームセンターに3cmのドリルを買いに来た客に対して、ホームセンターのアルバイト店員が、「当店にはドリルは置いていません」と返答したという話があります。3cmのドリルを買いに来た顧客のニーズとはいったい何でしょうか?

実は、顧客の話をよく聞いてみると本棚を作っていて、「3cmの穴の開いたべニヤ板」が欲しかったのです。顧客が求めているのはドリルそのものではなく、「3cmの穴の開いたべニヤ板」だったのです。

ホームセンターならドリルはなくても「3cmの穴の開いたべニヤ板」はあったと思います。顧客の言葉をそのまま「ニーズ」として捉えるのではなく、その言葉の裏に何があるのかを考えます。